日本で唯一の宝石専門チャンネル「GSTV」を運営し、自社製作したオリジナルジュエリーを販売している株式会社GSTV。2021年秋に開設した甲府事業所に今橋徹社長を訪ね、ジュエリー業界で唯一無二とされるビジネスモデルを確立するに至った経緯や、甲府に事業所を開設した理由、今後の展望などをお聞きしました。
日本で唯一の宝石専門チャンネルGSTV
「私どもは、主に自社で企画製作したジュエリーを、テレビを通じて全国のお客様に販売している宝石専門のテレビ通販の会社です。『ジュエリーを通してお客様に喜びと感動を与え、全社員の物心の幸せを目指す』という企業理念のもと、原材料の買い付けから、企画、製造、販売までを一気通貫で行い、良い物を安くお客様にお届けしています」と、今橋徹社長。
原料の輸入から販売までの過程で、カット石卸、宝石輸出、商社、メーカー、問屋、卸売業者、小売店、デパートなど、実に多くの事業者が介するジュエリー業界にあって、そのすべてを一手に担う新たなビジネスモデルを構築し、変革を起こしてきました。
「また、通販では、すでに出来上がっている商品を販売するスタイルが一般的なのですが、弊社はテレビではサンプルを紹介し、お客様からご注文を頂いてから商品を製作するという受注販売を基本にしています。これにより、在庫を抱える必要がないのはもちろん、指輪などもお客様のサイズに合わせて一つひとつ製作するため、サイズ直しの必要も、サイズ変更によるデザインのゆがみなどもありません」。これも、GSTVの特徴の一つであり、『良い物を安く』を実現できている要因の一つだと、今橋社長は話します。
はじまりは、個人営業の天然石輸入卸販売業
社会のニーズを敏感に察知し、唯一無二のビジネスモデルを確立
今でこそ従業員200名以上の大所帯となった株式会社GSTVですが、そのはじまりは、今橋社長の個人事務所でした。
「私の父は技術者で、甲府で、宝石の研磨機を製造販売するイマハシ製作所を営んでいました。宝石の研磨機を専門に扱う、国内はおろか世界的にも珍しい会社です。私は長男でしたから、学校卒業後は当然のこととして父の仕事を手伝うようになったのですが、その頃にはすでに世界中に販売していましたね」。
営業職として世界中の代理店回りをするようになると、訪問先でカルチャーショックを受けたと言います。「代理店の多くは宝石商で、朝はゆっくりと仕事を始め、お昼はたっぷりと時間を取ってランチに行き、夕方早々に仕事を終えて帰宅するという優雅な生活をしているんですよ。こちらはメーカーで、早朝から深夜まで走り回る毎日ですから、こんな生き方もあるのかと。次第に宝石屋の方がいいなと思うようになっていきました」。
そんなとき、国連の援助のもとでスリランカ国営宝石公社が設立されることになり、イマハシ製作所の研磨機が導入されることになります。技術指導のため現地に赴いた今橋社長には、約1か月半の滞在中通常の給与に加え宝石公社と国連からも手当が支給された一方、お金を使う場面はほとんどなかったそうで、「帰国する際には、日本円にして80万円程貯まっていました。スリランカは世界有数の宝石の産地ですから、せっかくだからと全額使って宝石を買い、それを香港に持って行って我々の代理店である宝石商に見せたんです。そうしたら全部買ってくれて2倍ほどになったんですね。それで心が決まりました」。
こうして宝石商に転じた今橋社長。当初は、研磨機の営業職時代に培ったコネクションを活かして産出国から原石を買い付け国内の研磨業者に卸す商売をしていましたが、やがてカットした宝石を輸入して国内メーカーに卸すように。その後も、香港で製作されたジュエリーの輸入販売へ、さらには香港に自社工場を設立してのジュエリー製造へと、商売を広げていきました。
「商売は順調でしたが、ある時、中国の窃盗団に香港オフィスにストックしてあった宝石を根こそぎ持って行かれてしまいましてね。保険金も半額しか下りず、これでは続けていけないと、思い切って香港工場を閉鎖しました。そして、それまで修理工場としていた日本の工場に香港から優秀な職人を招聘して手作りのジュエリーの受注生産を始め、やがて、大手ジュエリーチェーンのOEMやデパート通販の商品も手掛けるようになりました」。
その後も紆余曲折あり、業績は上がったり下がったり…。売り上げが伸び悩む時期も経験したといいます。そして、そうしたなかで光明を見出したのが、テレビ通販でした。
「当時、テレビ通販が一番売れていたんですね。ただ、その頃の日本のテレビ通販は、質よりも価格重視。安かろう悪かろうの商品が横行していましたから、このままでは先行きが見えないと思って、それで、世界最大級のテレビ通販会社QVC(本社アメリカ)で、良い物をリーズナブルな価格で提供する通販を始めたんです。最初は在庫負担がありましたが、売れても3~4割は返品になる上、同じ商品は二度と取り上げてくれないので、我々はその商品をつぶすしかない。これではやっていけないと交渉して受注生産に切り替えてもらい、それがうまくいきました。この時の成功が、今のビジネスモデルの原型になっています」。
一方で、他社のテレビショッピングを舞台にしているだけでは、放送時間が限られ、商品づくりにも不自由がありました。このままでは、いずれ売り上げも頭打ちになるだろうとの不安もあるなか、日に日に強くなっていったのが、自社でやりたいという思いでした。ただし、そのためには数十億の資金が必要になるため、周囲は猛反対。なかなか踏み切れなかったと、当時を振り返ります。
好機が訪れたのは、14年前。アメリカでテレビ通販を成功させたシンガポールの企業「ジェムズTV」の日本進出でした。
「アメリカで売れる商品と日本で売れる商品は違います。我々はベンダー(商品の供給元)として参画していたのですが、ジェムズTVがアメリカでの成功をそのまま日本に持ち込んで展開しようとしているのを見て、『これでは販売実績が上がらず、いずれ撤退するだろうな』と思っていました。そうしたら、案の定数年後に『会社を買ってもらえないか』と打診がきた。『しめた!』と思いましたね」。
負債も含め約1億円の投資で、チャンネルの権利からスタジオの設備まですべて手に入れることができたと今橋社長。2010年、新たな挑戦がはじまりました。
目標は、宝石とジュエリーを真の資産にすること
あれから12年。現在、株式会社GSTVでは、東京天王洲にある本社内の自社スタジオで番組を製作。衛星放送やCATV放送、IP放送などを通じて、毎日朝8時から26時までは生放送、それ以外の時間は録画放送で、1日に200点前後のジュエリーを紹介しています。
「宝石は、地球が人類に与えてくれた最古の、そして素晴らしい宝物です。私は、その美しさや希少性といった宝石の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらいたいし、ジュエリーを身に着ける楽しさを味わって欲しいとも思っているんですよ」。そのために、希少性の高い高品質なジュエリーをフェアプライスで販売するための独自のビジネスモデルを作るとともに、専門のコメンテーター陣による宝石やジュエリーに関する詳しい解説を交え、見て楽しく、宝石やジュエリーの知識も得ることのできる番組作りを目指してきたのだと今橋社長。「我々の目標は、宝石とジュエリーを本当の意味の資産にすることです。動産である宝石とジュエリーを、不動産並みの資産にすることが、我々の使命だと思っています」と続けます。
この使命を全うするため、GSTVでは2つの挑戦が始まっています。
「ひとつは、販売価格の標準化です。我々なりに良い物をどこよりも安く販売しようと努力しています。それが当社の独自のビジネスモデルで実現していることであり、それにより提供できる販売価格を『フェアプライス』と呼んでいるのです。宝石文化をより広めるためにも、他の業者とりわけ小売店にもこの『フェアプライス』に、準じてもらいたいと思っています。そういう意味では、みなさんとの協働ですね」。
すでにウェブマーケットなどでは、大手も含めて、GSTVの販売価格を意識した価格設定が見られるそうで、「我々の商品よりも安くしようという動きも見られます。大歓迎ですよ。この動きをさらに広げて、今後10年を目安に我々の『フェアプライス』を宝石とジュエリーの標準価格にしていきたいですね」と、力強く語ります。
もう一つの挑戦は、セカンダリ―マーケットの確立です。
「現在、購入時の価格で50兆円ともいわれる宝石やジュエリーが日本中に眠っていると言われます。それが今30兆円の価値があるのか、それとも20兆円なのかわかりませんが、とにかく数兆円がタンスの肥やしになっている。対して、今、日本のジュエリー市場は年間1兆円を下回る規模になっているんですね。そこで、我々としては、まずは日本のどこかで眠っている宝石やジュエリーをフェアなプライスに変えていきたいと。もし、手元にある宝石やジュエリーを誰もがフェアプライスで自由に売ったり買ったりすることができるようになれば、宝石やジュエリーの資産価値は必ず上がりますからね」。
現在GSTVでは、顧客から不要になったジュエリーを預かり、必要に応じて洗浄や修理を施し査定した上で、フェアプライスを提示。顧客が納得した場合にその価格で代理販売するという事業を展開しています。
「現状はウェブショップでの固定価格販売になりますが、本来はオークションのような形が良いのではないかと思っていて、今後、ネットオークションのシステムを使って、リアルとテレビとでやっていきたいなと思っています」。
この2つが成功すれば、宝石もジュエリーも必ず資産になると、今橋社長は力を込めます。
国内初の生産拠点として、甲府に事業所を開設
2021年9月には、新たに甲府事業所を開設しました。
「我々は中国とタイに生産工場を持っていて、それぞれが持つ特化した技術を生かし、コストも考慮した上で、ジュエリーを作ってきました。このスタイルでデメリットはあまり感じずに来たのですが、今回のコロナ禍では物流が滞り、海外拠点のみに生産を頼るリスクを実感しました。そこで、国内にも生産拠点を持ちたいと考え、ジュエリーを地場産業とし、我々のベンダーさんも多くおられる甲府に事業所を置くことにしたのです。ジュエリーの製造は我々1社だけではできませんから、ジュエリー産業に携わる人や会社が多いということはそれだけで大きなメリットですし、ベンダーさんとのやり取りも圧倒的に効率化できますから。それに、甲府は私にとっても少年期を過ごした特別な場所。この業界に入ってからも大変お世話になりましたから、恩返しをしたいという思いもありました」。
事業所内の工房には、独自開発した日本トップクラスの性能と生産性を誇る鋳造機をはじめ、最新の機器を導入。CADを使っての企画やデザインも行って、質の高いものや納期の短いジュエリーを中心に、製造していくそう。同時に物流拠点としても稼働させる予定で、とりあえずの目標として、現在発送している月産5万~6万個のうち2万個を甲府から発送できるようにしたいとも言います。
甲府事業所の社員は、基本的に現地採用
技術者の育成にも力を入れていきたい
「事業所開設にあたっては、本社から技術職の社員のみ12名ほど連れてきましたが、それ以外は現地採用しております」。
今後、本格的に事業が進むに従い、さらにパートやアルバイトを含めて雇用を拡大していきたいと言います。
さらに、甲府事業所では、技術者の育成にも力を入れていきたいと力を込めます。
「かつての甲府には腕のいい職人さんがたくさんいらっしゃったのですが、その技術が誰にも継承されないまま高齢化が進み、いずれ技術そのものが無くなってしまうということが起こり得る。非常に残念です。テクノロジーの進化により宝飾業界でもCADや3Dプリンターが重用されるようになっていますが、連綿と受け継がれてきた確かな技術は必ず必要とされ、その価値はむしろ高くなっていくはずです」。
こうしたことから、GSTVでは職人志望の若者を積極的に採用して優秀な技術者へと育成していきたいと考えており、すでに7名の山梨県立宝石美術専門学校の卒業生が勤務。加えて今春には3名の新卒が入社予定だと言います。
「甲府事業所には国際技能オリンピックで金メダリストに輝いた社員もいますので、彼に指導をしてもらったり、中国から腕のいい技術者を招聘して中国独自の技術を伝えたりということも考えています。
また、山梨県立宝石美術専門学校で指導する機会を与えていただけたらとも考えています。確かな技術を身に付けることは、職人を志望する学生にとっても大きな武器になるはずですから」。
「子ども達のために何かできたら…」
そんな思いからはじまった、念願の子ども食堂を開催
一方、プライベートでは2歳から18歳まで6人のお孫さんのおじいちゃんでもある今橋社長。会社が成長し業績が順調に伸びるなか、自然と沸き起こってきたのが、「子ども達のために何かしたい」という思いだったと言います。
「テレビで子どもの貧困のニュースなんかやっていると、もう見ていられないんですよ。かわいそうでね。それで、子ども達のために何かできないかと考え、子ども食堂をやりたいなと思うようになりました。こんなことを思うようになったのは、孫が生まれてからです」。
東京で企業として開催することには難しい面があり、これまでは子ども食堂を運営しているNPO法人に賛助するしかありませんでしたが、甲府でなら可能なのではないかと社員食堂を整備。甲府市内のNPO法人に協力を得ながら、なんとか開催にこぎつけることができました。
「根底には、親子で安心してゆっくりと一緒に過ごして欲しいという願いがあり、その時間を作るために、食事と場所を提供しようというのが我々の考えです。まずは月1回、賛同してくれる社員の手を借りながら開催し、そのなかで、当社だからできること、例えば、お子さんに簡単なジュエリー作りを体験してもらい、仕上がったジュエリーをお母様にプレゼントするといったことも、12月のクリスマスイベントでは行っていきます」。
2021年11月23日に開催された最初の子ども食堂には、多くの母子が集まり、楽しいひとときを過ごしていました。
「おかあさんの心に余裕ができると、子どもさんに優しくできたり、ジュエリーにも興味を持ってもらえたり…、いろんな意味で良い循環が始まるのではないかと思います。何より、ここでひとときゆったりと過ごしていただくことが、心の余裕につながってくれればと思います」。
アイデアはたくさんあるので、今後は一つひとつ検討しながら、GSTVならではの子ども食堂の形を作って行きたいと、今橋社長。母子を見守る優しいまなざしが印象に残りました。
2021年12月19日に開催された第2回子ども食堂ではクリスマスイベントとして、手作りのジュエリーを、お母さんからお子さんへ、お子さんからお母さんへプレゼントするイベントが開催されました。
今は変革のとき。新しい『宝石のまち 甲府』を一緒に作って行きましょう
最後に、甲府のジュエリー産業について聞いてみました。
「今、業界全体がとても厳しい状況にあります。それは、コロナのせいもあるし、長引く不況のせいもあると思いますが、私は、分業化されて、誰もリスクを取らない業界の仕組みにも、問題があると思っているんですね。そして、今のままでは甲府のジュエリー業界は衰退する一方だということも、みなさんすでにご存じだと思うんです。
ある意味、今はチャンスです。しがらみがあって変えられなかったことも、今なら弊害なく変えられる。なぜなら、問屋も小売りもデパートも、すべてが厳しい状況にあるからです。
では、どう変わるか。ひとつには、SPA(製造小売)という選択があります。バイヤーの顔色をうかがうことなく消費者目線で自分達が良いと思うものを作り、ウェブやテレビを使って今の卸値で小売をするんです。そうやって、自分達のファンを作る。厳しいけれど、やりがいはあると思いますよ。
その意味では、我々も、扉を開けてお待ちしています。我々のビジネスモデルであれば、メーカーさんもノーリスクで始められます。だって、在庫を持つ必要はなく、サンプルを一つ作るだけでいいんですから。それで、5個でも10個でも受注できれば、商売になるじゃないですか。もちろん楽ではありませんよ。我々がやっているのは、良い物をどこよりも安くという挑戦ですから、相当大変です。でも、実際に、業績を上げているベンダーさんもたくさんいらっしゃいますから、挑戦してみる価値はあるのではないでしょうか。
ともあれ、一つ言えることは、今は変革の時。テクノロジーの発展によって、メーカーがお客様と直接つながれるようになり、問屋も小売も存在意味がなくなりつつありましたが、それが、このコロナ禍で加速しました。今では、仕事も、日々の買い物でも、誰もがウェブを活用するのが当たり前になりつつあります。コロナが収束しても、この流れはきっと変わらないでしょう。
これは間違いなくチャンスです。ぜひ一緒に、今後、甲府のジュエリー業界がどうあるべきかということを真剣に考え、全力で取り組んで、新しい『宝石のまち 甲府』を作って行こうではありませんか」。
▲樋口雄一市長がGSTVを表敬訪問しました。意見交換後にスタジオや製造現場を見学しました。