こうふ開府500年を記念した白のスパークリングワインが誕生して約1年。
大好評のうちに完売した白のスパークリングワインに続き、今年は、「甲府sparkring 甲州2018(白)」と「甲府sparkring マスカット・ベーリーA アリカント2018 (赤)」が赤白揃って登場した。
行政 × 大学 × 農家 × ワイナリー オール甲府市でワインをつくる。
「『こうふ開府500年』『日本ワイン発祥から150年』という記念すべき年に、原料・酵母・ワイナリーすべて甲府市産で、記憶に残るスパークリングワインを作ろうというのが、このプロジェクトのはじまりです。」と甲府市役所 産業育成係 今宮茂則係長は言う。
明治3・4年頃、甲府市広庭町(現甲府市武田3丁目)の「山田宥教」氏と、甲府市八日町(現甲府市中央2丁目)の「
「『原料、酵母、ワイナリーを甲府市産でワインをつくる』ということは、プロジェクトを立ち上げたわたしたち行政側だけではできません。山梨のワインの歴史があってこそ設立された山梨大学ワイン科学研究センター、原料となるぶどうを提供していただいた農家のみなさん、そしてワイナリーの協力があってこそ、こうして形にすることができたのです。」
こうふ開府500年と日本ワイン発祥150年。甲府市を語る上ではずせない2つの「はじまり」が時を経て交わり、スパークリングワインが誕生したのだ。
【Mission1】発酵力の高い酵母をさがす
「オール甲府市産でワインをつくる。」
それは、甲府市内でワインを発酵させる酵母から見つけることを意味する。
プロジェクトメンバーが、まず協力を求めたのは、山梨大学ワイン科学研究センター※1の柳田藤寿教授だった。
柳田教授はこれまでも、世界ではじめて海洋酵母※2からワインを作ったり、幻の湖といわれる「赤池」※3から酵母を採取してきた、まさにワイン研究のエキスパートである。
※1 国産ワイン生産日本一といわれる土壌から山梨大学に誕生した。果実酒を専門に研究する日本で唯一の研究機関。
※2 酵母の多くは果実など糖分の多い場所に生息する中、海水中に生存していたという変わり種の酵母。
※3 富士五湖のひとつ精進湖の南東に7・8年に1度出現する湖。「幻の湖」「富士六湖」とも呼ばれる。
柳田教授の協力を得る中で、
- 甲府市内でワイン酵母を見つけ出す
- 甲府市産の甲州ぶどうを使用する
- 甲府市内のワイナリーで醸造する
を柱にワインの醸造に取り組むことになった。
「柳田教授にお願いして酵母を探し始めたのは、平成28年でした。ワイン科学研究センターの協力のもと、武田神社、千代田湖、昇仙峡などの観光名所から春と秋の2回に分け採取した土壌や水などから酵母を分離しました。最終的に得られた酵母の数は400種を超えました。」
「その得られた400種以上の酵母菌による発酵試験等を繰り返し、ワインに向いているか否かを見極める作業をセンターで1年間行いました。」
▲(左)山梨大学ワイン科学研究センター 柳田藤寿教授 (右) 発酵試験の様子。この試験から54の酵母が選ばれた。
気の遠くなるような過程を経て、発酵力が高く、アルコールを安定して生成できる54の酵母に絞り込まれた。
「その54種の酵母を使って実際にワインを作り、成分分析やテイスティングを重ね、最終候補の2種を選定しました。」
選ばれた2種類の酵母は、2018年8月29日に行われた樋口甲府市長、島田山梨大学学長、柳田教授による公開テイスティングで、最適な酵母が決定された。
「その酵母は、武田神社内で採取されたものでした。武田信虎が躑躅ヶ崎(つつじがさき)の地に館を構えたのが、甲府のはじまりだといわれています。そして、後にその場所に建てられたのが武田神社です。現在へと続く縁を感じましたね。」
【Mission2】甲府市産甲州ぶどうを確保する
1年をかけて酵母が決まった後、次に待っていたのは甲州ぶどうの確保だった。
「我々にとって、いちばん難しかったのは、甲府市産の甲州ぶどうを集めることでした。」
近年の日本ワインブームもあり、ヨーロッパでも認められた甲州ぶどうは、非常に人気が高い。しかし、その需要の高さとは逆に生産者は減っているという。
また醸造用のぶどうは、栽培量と出荷先はほぼ決まっていて、来年のことといっても、このプロジェクトのためのぶどうを確保するのは難しかった。
必要な甲州ぶどうは6.5トン。
「そこで、ご協力をいただいたのが、JA甲府市(現JA山梨みらい)さんです。JA甲府市の協力やわたしたちプロジェクトの関係部署の人たちが総出で各農家さんに提供のお願いをした結果、目標だった6.5トン以上の甲州ぶどうを集めことができました。」
【Mission3】甲府市内のワイナリーで醸造する
集まった甲州ぶどうは、甲府市北口のワイナリーサドヤで白のスパークリングワインに醸造された。
▲(右)サドヤワイナリー外観 (左)サドヤワイナリー貯蔵庫
一番搾りのぶどう果汁を使用
「ビールでよく『一番搾り』って聞きますよね。ワインにも一番搾りがあるのです。」
今回醸造した白のスパークリングワインは、その一番搾りしか使用していないという。
「私も果汁を試飲させていただいたのですが、味が全く違いました。一番搾りといわれる果汁は全体の70%~80%程度。本当に贅沢なスパークリングワインに仕上がりました。」
【Mission4】新たに赤のスパークリングワインを醸造する
2019年、新たに赤のスパークリングワインの醸造に取り組んだ。
ロゼではない、赤を目指す
「このプロジェクトに関わるうちに、ロゼ※4のスパークリングワインは結構出回っているのですが、赤のスパークリングワインは滅多に見かけないことに気づきました。
500年に1度の記念日をお祝いするなら、ロゼの淡いピンク色ではなく、本当に赤と白の「紅白」で祝いたい!と思ったのです。」
こんな戦略もあった。
「スパークリングワインの輸入量は、年々伸びています。しかし、スパークリングワインをたしなむ方が増えている中で、国産の赤のスパークリングワインは非常に少ない。そこに商機があると考えました。」
※4赤ワインのコクと白ワインの飲みやすさを合わせもつ、ピンク色のワイン。
赤のスパークリングワインを醸造するにあたり、前年選定した優良5株から2株に絞り込み、ワインを醸造し、「見ため」「香り」「味」「総合バランス」から使用する酵母を決定した。
そして甲府市桜井町のワイナリー・ドメーヌQでの醸造がはじまった。
▲ドメーヌQ 外観
赤のスパークリングワインには、マスカットベーリーA 、アリカントという2種類のぶどうを使用しているという。
「マスカットベーリーAのみだと、酵母がぶどうの赤い色素を食べてしまい、果汁の色が薄くなるそうです。果汁の色を赤にするには、もう1種類のぶどうを混ぜるしかないのです。そのもう1種類に選ばれたのが、アリカントでした。」
アリカントの果汁は、赤というより黒に近いという。マスカットベーリーAと混ぜることで深みのある赤に変わるのだ。
「実は、酵母の選定の時、ドメーヌQの久保寺社長が選んだ酵母は、他の選定委員の評価はそれほど高くなかったのです。私自身、何故この酵母を選んだのだろうと、とても不思議でした。
あとで話を聞くと、柳田先生と相談して、ロゼではなく赤でスパークリングワインを作るなら、赤い色素を極力食べない酵素、加えてその中でも発酵力が高い酵母を選んだというのです。」
「新しい酵母で作る、まだ姿を現していないワインの『見た目』まで、柳田教授と久保寺社長の中では、すでに具現化していることに驚きました。」
そして、2019年1月1日午前0時「甲府Sparkling(スパークリング)甲州2018(白)」「甲府Sparkling(スパークリング)マスカット・ベーリーA、アリカント 2018(赤)」の発表を迎えた。
プロジェクトを振り返って
「最初はわたしたち市役所が先導してはじまったプロジェクトですが、新しい商品ができたことで、今まで行き先のなかったぶどうをワイナリーが買い取り、ぶどう農家さんの収入になる。またワインが売れることで、ワイナリーの収益も上がる。そして飲んだ方を笑顔にできる。
将来的にも継続して醸造していくことで、こういった経済活動の好循環が生まれる持続的なプロジェクトでありたいと思います。」
「さわやかな風味の飲みやすいスパークリングワインに仕上がっているので、是非、みなさまに飲んでいただきたいですね。そして、このワインのファンになっていただけたらうれしいです。」
“味わう”
“想う”
“包まれる”
甲府を味わうことで、甲府を想い、そして甲府に包まれる。そんな新感覚。
今と昔の甲府を繋ぐ。
新しいけど歴史がある。
2018年の甲府スパークリングワインを是非お楽しみいただきたい。