【目次】
今回は、現在ジュエリーの製造から販売までを手掛ける株式会社コダマの小玉実社長にお話を伺いました。
甲府市で操業している理由:物づくりに必要なものがすべて揃っている
「甲府市で操業しているのは、ここにジュエリーの原料から職人さん、卸業者、小売など、全てが揃っていることが大きいですね。
甲府市は日本でも世界でも有数のジュエリー生産地だと思います。レベルの高い職人さんも揃っています。
ジュエリーに関する人・物が集まっているので、製作の各工程のやりとりや納品も移動に時間を割かなくてすみますし、首都圏にも近い。地の利はすごく優れていると思います。
物づくりというと、少人数で作っているところが多いのも、甲府市の特徴かもしれません。少人数だからこそ、仕事の内容も人間関係も濃密になるからか、人とのつながりから商品が出来上がっていくんだなとすごく感じます。
ずっと甲府市で操業しているので、この環境を当たり前だと思っていましたが、実際に甲府以外でジュエリーを作ろうと思ったら大変だと思いますね。」
コダマを創業する前は、ジュエリーの小売の会社に勤めていた小玉社長。ジュエリーを身に着けて人が笑顔になるところを目の当たりにして思いました。
「例えば製作は製作だけ、卸は卸だけになってしまうと、その先にいるお客様が見えにくくなります。私の場合は、実際に商品を手にとって身に着けてくれるお客様に接して、どうすれば喜んでいただけるかを一番最初に考えられた事が大きかったと思います。」
『ジュエリーを身に着ける方のことを一番に想う』
創業から30年。ジュエリーの製造から販売までを手掛ける現在もその想いは変わらないといいます。
「この30年の間には、バブルのような時もありましたし、景気の悪い時もありました。ただどんな時代であっても、自分たちの気持ちが入ったジュエリーをきちっと作り、その商品を愛してくれる方に届けていきたいと思っています。」
2001年には、ドバイの「バージュ・アル・アラブ」で自社製作のジュエリーの販売を開始します。
「ご縁があり、ドバイの宝石店の方に私たちのジュエリーを見せるチャンスをいただきました。彼は商品を見るなり、『素晴らしい!注文するから作ってくれ』と言ったのです。」
初対面の相手からの思いもよらぬ言葉に小玉社長は驚きました。
「私は驚いて『私がどういう人間か、コダマがどういう会社なのか知らないのに、どうしてそんなに信用してくれるのですか?』と聞きました。彼は『この品物を見たら、あなたたちの誠実さが伝わります。』と言ってくれたのです。」
ドバイでのこの経験はまるで夢物語のようだったと小玉社長。
コダマのジュエリーは、ドバイで取引された日本初のジュエリーとなりました。
日本では作った商品・製品の出来よりも会社の規模や年商で評価されてしまう傾向がありますが、海外では『作った物を見て評価する』と言われます。
そんな海外で自社のジュエリーを高く評価された経験は、掲げてきた想いをより強くしました。
「あの時は、自分たちが真摯に妥協せず、物づくりをしてきて本当に良かったと心底思いました。ビジネスなので利益を上げなければならないですが、ただ儲かればいいというのではなく、お客様のことを思い、製作も販売も全社員が本当の豊かさとはなんだろう、豊かさをジュエリーで表現するにはどうすればいいだろうと一生懸命考えながら、本物の物づくりをしていきたいと思いましたね。」
小玉社長にとって「豊かさ」とは何でしょうか?
「経済的なことだけではなく、心にゆとりが持てることが一番の豊かさだと思います。相手を思いやれる心のゆとりを持てる会社でありたいですね。この職業はクリエイティブなものです。そういう気持ちを持たなかったら美しく、人を感動させるようなジュエリーは作り出せないですから。」
会社の特徴:小さい企業だからこそできる、本物の物づくり
現在コダマでは、9名の社員が働いています。
「ジュエリー業界は特殊だと思っているのですが、小さい企業だろうと、大企業だろうと、同じ土俵に立てるのです。私たちのように9名しかいない小さな企業でも、海外や全国の百貨店で取り扱ってもらっています。妥協せずに追求し、素晴らしいジュエリーを作ったら、見た人は感動する。そしてそれがビジネスにつながっていくのです。」
1つのジュエリーを作り上げるまで、半年かかるものもあります。
「自社工場「Works K」では2名が働いています。分業制で、デザインから立体に起こす作業と組み立て・磨きの作業をそれぞれ受け持っています。分業制だからこそ、技術的なレベルが高い人同士でないと、なかなかうまくいきません。そういう高い技術を持った職人がいてくれるからこそ、みなさんに評価されるジュエリーが生まれるのです。」
「見えないところまで手を抜かないことがこだわりです。仕上げ直しでお客様からお預かりしたジュエリーを見ると、どれだけ大切に身に着けてくれたのかわかりますし、うれしいです。もっといいものを作りたいと思いますね。」
「Works K」で働くおふたりはそう語ってくれました。
いくら形の良いものができても、それだけでは成り立たない。同様にいくら磨きで美しく仕上げても、立体のバランスがよくなければ、成り立たない。
立体にする技術と磨きの技術の相互作用でこのクオリティが保たれているのです。
「私は自分のことをメッセンジャーだと思っています。一生懸命職人が作った商品をお客様に届け、製作にかかわった人たちの想いも伝える。そして商品を手にしたお客様の笑顔や喜びをまた製作サイドに伝える。ジュエリーを通して関わった方たちの想いも運んでいるのかもしれません。」
と、小玉社長は “メッセンジャー” という言葉に想いを投影しました。
人材育成とこれからの甲府市のジュエリー業界について
「今年開催した甲府ジュエリーフェアを見ても国内の販売額は下がっていますが、中国や海外からは3倍増になっています。海外の方は、甲府市のジュエリー業界が仕入れたものを売っているのではなくて、作ったものを売っている点を非常に高く評価してくれるのです。
自分たちが作った物を売ることは、日本のジュエリーの信頼にも繋がっていると思います。
その評価を維持するには、若い人たちを育て、高い技術を伝承していくことが急務です。」
小玉社長は山梨県水晶宝飾協同組合の理事長という立場から、甲府のジュエリー業界の将来を見据えています。
「昨年は、山梨県立宝石美術専門学校の学生が、技能五輪で金賞を獲りました。若い人たちの中で、目指す人が生まれました。一方で自分の築いてきたキャリアや技術を後進に伝えたいと思ってくれる職人の方たちがいてくれます。」
業界全体の枠組みの中で、若者と熟練の職人を結びつける何かが必要だと感じました。
「この状況を人材育成の場に活かそうと、現役で仕事をし、日本でも有数の技術を持った職人が教える伝承塾を始めます。
これまでの職人の高い技術と専門学校で教える新しい技術を両方学べる環境を作り、巣立った職人の卵たちが活躍できるよう、受け皿である企業も努力していかないといけませんね。」
しかし、甲府市のジュエリー業界を盛り上げていくには、これだけでは足りないのです。
「世代を超えて協力していくことが大切だと思います。私たちの世代ではできないような方法、たとえばSNSなども使って、若い組合員の方の知恵を借りながら、どのように情報を発信していくか、試行錯誤しながら取組んでいます。
また、ジュエリー業界のみにとらわれず、甲府を代表するワインや印伝など、様々な業界がお互いを認め合って、それぞれの分野でお互いの良さを拡散していけば、相乗効果でより広まっていくのではと考えています。オール甲府、オール山梨でお互いに盛り上がっていく意識が必要なのです。」
会社の未来について
「これからもジュエリーを作っていきます。国内のお客様も大切にしてきますが、海外の方々と一緒にお互いの良さをわかって何かしたいですね。」
こんなに人の心に寄り添える商品を作れる業界は、他には絶対にありません。
どんなに時代が流れてもジュエリーは決して無くなることもありません。
この2つのスタンダードをもとに、これからもジュエリー業界で進み続けるのです。
「将来若い方々が日本のモノを海外に紹介する、国際的な中で日本の商品として恥ずかしくないものを扱う会社であるためにどうしていくか、模索しながら国際色豊かな会社になれていったらいいなと思います。」
小玉社長はこれからもジュエリーに想いをこめて届ける “メッセンジャー” として、世界に向けて発信し続けます。